2011/5/1〜色々な「物語」(〜4/30・掲示板開設までの間に)

誰が不利益を被っているのか。-里見女流三冠の奨励会入会試験-

この問題について、例えば「金と銀」氏は、駒音で次のような見解を述べている。

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51.  金と銀 - 2011/04/16(Sat) 01:35 No.30817 (一部引用)

里見さんの存在は確かに大きいが、だからといって最高決定機関(国では国
会)の決定を無視するような組織はとても公益法人の名に値しない。
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この発言を読んで、私は何ともいえない空しさと哀しさを覚えた。氏のような主張が、多くの将棋ファンに受け入れられるとは、とても思えないし、受け入れられる説得力がここには微塵も感じられないからである。

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52.  世渡り下手爺 - 2011/04/16(Sat) 02:35 No.30818 (一部引用)

株式会社の株主総会が、連盟の棋士総会にあたります。
株式会社の取締役会が連盟の理事会にあたります。

株主総会の決議事項を取締役会が覆したら、取締役会は背任行為を行ったこと
となり総退陣が社会の一般常識ですし、会社法においてもあり得ない事です。

それが、プロとしての自覚かね。プロならば自分達の世界の未来を、次を担う
者たちの為に努力できない事を恥と知れ!今を作ってくれた先達にわびろ!

と言いたい、昨今です。 
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公益社団法人は、株式会社ではないのだから、会社法の適用は受けない。連盟は株式を発行しているわけでもない。前提条件が異なるものを同一のように装い、背任だの何だのといっても、該当はしない。誤った前提を振り翳して「恥を知れ」「先達にわびろ」などと、傲慢不遜な言葉をまき散らす。
どうして世渡り下手爺氏は「言葉」というものをもっと大事にできないのだろうか。

さて、私はここで「誰が不利益を被っているのか」というタイトルをつけてみた。

林葉さんも中井さんも「奨励会試験」を受験している。当時と今では、女流棋界のおかれた状況は今ほど盛んではなかった。女流名人・女流王将だった林葉さんも奨励会では確か三級に手が届かなかった。中井さんも負けが込んで「黒べぇ」などという辛いニックネームがついたりもした。

里見女流三冠は女流棋士会への道を最初に選択した。その女流三冠が「奨励会入会」を希望した。こういう事例は今までにない。そういう意味では「特例」ということになる。

試験がなぜ5月なのか、という意見がある。そのことは盤側の談話室にも記したが、連休のド真ん中や土曜日に開催されるということで、否応なく注目も集まるだろうし、web解説や大盤解説会でも開催されれば、ファンの方にとっても参加しやすい日程である。「里見四段」に向けての第一歩である、未来の棋士を目指す女の子たちもこのような催しを楽しむことができる。実は「話題になる」「話題を提供する」というのは、普及面でも重要なことなのだ。私はそのことにケチをつけるつもりは毛頭ない。

次に里見三冠の「兼業」の問題である。「奨励会」と「女流棋戦への参加」の両立は認められていない。
これを決めた理由というものが「将棋を指す環境において不公平」などというものだったとしたら実に情けないものだと思う。プロなのだから「強くなりたい」と思うのが当たり前ではないのか。

これを今回、独断で決めたということで批判する動きがある。

では私は問うてみたい。そのことによって一体、誰が不利益を被ったのか、である。
現行の将棋連盟正会員に「不利益は」生じるか。棋界にとって「女流」のつかない女性の四段棋士の誕生はある意味悲願といっても過言ではない。多くのファンも、それを望むだろう。話題性もついてくる。それは女流棋士の活性化にもつながる。数が増えなければ底上げといっても限界がある。正会員は「里見さんが四段となったら、戦う可能性がある」というだけで、そんなものは不利益になるはずはない。

現行の女流棋士に「不利益は生じるか」というと、これもない。奨励会会員というのは記録係の収入や今回新設された棋戦の対局料を除いては収入の道はない。里見女流三冠が奨励会に合格したならば、当然、男性との対局機会、その身を削るような勝負が増える。鍛えられれば強くなる、それは狡いなどというのは勝負師としては甘えである。そういうことを「不利益」にしてはいけない。プロとして勝負に生きるというのであれば。

奨励会の現行会員はどうだろうか。三冠というタイトルホルダーでも「奨励会」では1級なのだ。何も縁故や一門の権限や会長の一言で無試験で入るというわけではない。むしろ、男性の会員は「里見さんと当たれば自分の白星がひとつ増える」くらいの気概をもっているだろう。

奨励会試験・入会規程にはこう記されている。

満21歳の誕生日までに初段になれなければ「退会」と。

合格してのちに、里見さんの足踏みが続き、初段になれなくとも、例えばそこで彼女ひとりのためにルールを甘くするなどということはあってはならない。何故ならば、それは彼女ひとりに利益を供与することになるからだ。私は思う、里見さんは何と厳しい棘の道を選択されたのだろうと。

里見さんは女流名人・倉敷藤花・女流王将というタイトルを有している。タイトル戦は、それぞれのメディアが事業費を支払い、棋譜の掲載、公共送信権などをもっている。ここで彼女が休会すれば、タイトルは宙に浮く。タイトルホルダーから奪取してこその栄誉というものも挑戦者には与えられるということを考えれば、メディアの事業サイドとして、里見さんの休会というものは、一方的には決められない。私は「特例」という言葉をここで用いたが、それはこういう背景もある。誰にも不利益が生じることはなく、棋戦との兼ね合いもある。ファンも喜ぶし、強い棋士の棋譜には注目も集まる。こういう前例もなく、不利益も実害も生じないというのであれば、今回の連盟の措置は妥当であると考えている。

「自分達の世界の未来を、次を担う者たちの為に努力できない事を恥と知れ!」と世渡り氏は述べているが、少なくともこの件に関しては、3つの女流タイトルをもつ棋士が「四段になるかもしれない機会」を連盟は与えたのである。そして「タイトルホルダーとしての責務を果たす」という道を、おそらくは様々な関係性の中で、里見さんは選びとったのである。

「男性棋士も、女性棋士も発展する世界」を目指す、第2、第3の里見さんを目指す、次の世代を担う者たちの笑顔を思いながらの努力と申し上げていい。決して恥じることではない。この選択は誇っていいことなのだ。

LPSAに所属する限り、組織が違うのだから、そこに所属した女流棋士のみなさんは、或いはこれから所属しようとされる人々は、当然、連盟正会員としての四段にはなれない。これは不幸なことなのかな、と一瞬考えたがそういうことでもないだろう。将棋に関る者としてどう生きるのかは、本人が決めればいいことだ。私は里見さんの今回のチャレンジを喜んでいるけれど、その一方において、誰もが里見さんのようにはなれないし、羽生名人のようにもなれはしない。それは現実として厳然と存在している。

だから「しあわせのかたち」をどう求めるか、ということにもなる。それぞれが選びとるということなのだ。

                                   JC IMPACTU



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